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高森明勅
2020.1.3 06:00皇室

天皇陛下新年最初の行事・四方拝

天皇陛下の新年最初の行事は「四方拝(しほうはい)」。

宮中三殿の西方にある神嘉殿(しんかでん)の前庭に設けられた仮設の
御遥拝所(ごようはいじょ)で行われる。
内廷職員による行事の準備が始まるのが午前4時。
辺りは真っ暗闇で、前庭の玉砂利にまだ霜が降りている頃だ。
上皇陛下は皇居内の御所にお住まいでも、行事の場所に向かわれるのに、
ご潔斎(けっさい、かかり湯をされ身を清められる)を済まされた上で、
午前4時半過ぎに御所を出発されていた(但し近年はご高齢に配慮し場所を
御所内に移しておられた)。

天皇陛下は、今年は赤坂御所からのご移動なので、もっと早くご出発になったはずだ。
この時はモーニングコートをお召し。
到着されると、三殿と棟続きの綾キ〔“糸”偏+奇〕殿(りょうきでん)にお入りに
なって、お手水をされた後、黄櫨染御ホウ〔“衣”偏+包〕(こうろぜんのごほう)に
お着替えになる(即位礼正殿の儀でお召しになった古式のご装束)。

まだ夜明け前の午前5時半近く、天皇陛下は再びお手水の後、神嘉殿の簀子
(すのこ、縁側)から前庭に降り立たれる。
庭には2ヵ所、かがり火が焚かれている。
御遥拝所には二双の屏風(びょうぶ)が向かい合わせに立てられている。
天皇陛下はその屏風の中にお入りになる。
屏風の中には御座(ぎょざ、御畳)が設けられ、一対の菊燈台(きくとうだい、
台座を菊花にかたどった灯明台)によって僅かに明るさが保たれている。

陛下が着座されると出入口となった屏風の北東側が閉じられる。
屏風には四季折々の絵が描かれている。
屏風は南西側だけが開いた状態だ。
この方角の彼方には皇祖・天照大神を祀る伊勢の神宮が鎮座している。

1月1日の午前5時半。
真冬の屋外で、地面の敷物に厚畳を置いただけの状態では、身も凍るような
寒さに違いない。
天皇陛下は先ず伊勢の神宮に向かって遥拝をされる。
その後、東→南→西→北の順で四方の神々を拝礼をされる。
その際のご作法は、「起拝(きはい)」という最も丁重かつ厳粛なご作法だ。
天皇陛下の宮中でのご作法は起拝を通例とする(皇太子も同じく)。
普通なら御玉串(おんたまぐし)の根元を両手で執られながら起拝をされる。
しかし、四方拝では御玉串を捧げられない。
なので、御笏(おんしゃく)を手にされてのご作法となる。
以下の通り。

御笏を右手に持ち、正座の姿勢から先ず右足より立つ。
両足を揃えて、両手で笏頭(しゃくとう、笏の上の部分)を目の高さまで上げ、
腰を折って深々と頭を下げながら、左足からしゃがんで正座の姿勢に戻り、
そのままうつ伏せられる。
それを2度繰り返された後、正座のまま1度、深く頭を下げ、更に同じ起拝を
2度繰り返される。
前段と後段で2回ずつ、合わせて4回の起拝が行われる。
それを「両段再拝(りょうだんさいはい)」と呼ぶ。

一般の神社の神職より遥かに敬虔なご作法だ。
それを、伊勢の神宮と四方で同じように行う。
従って起拝が20回、前段と後段の間の深いお辞儀が5回、合計で25回も、
深く頭をお下げになる事になる。
身体的にも大変大きなご負担だ。
四方拝は、ご代拝が認められないので、天皇陛下がご体調その他の理由で
行えない時は、そのまま中止となる。

四方拝の後は引き続き、三殿で「歳旦祭(さいたんさい)」が執り行われる。
同祭は「小祭(しょうさい)」なので、「天皇」と「皇太子」だけが携わられる。
他の皇族方のご参列はない。
天皇陛下は歳旦祭で、賢所(かしこどころ)・皇霊殿(こうれいでん)・神殿で、
それぞれ御玉串を執られて起拝(両段再拝)をなさる。

この祭典について、上皇后陛下が皇太子妃の頃、次の御歌を詠(よ)まれている
(昭和54年)。

去年(こぞ)の星
宿れる空に
年明けて
歳旦祭に
君いでたまふ

(去年の星がまだ夜空に残っているまま、新しい年が明けて、
皇太子である君は歳旦祭にお出ましになる)

皇室祭祀は、皇統の「世襲」継承者としての大切なお務めだ。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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